この住宅は二世帯の家族のためのものであり、幾つかの個室群と家族が集まるためのリビング・ダイニング・スペースで出来ている。しかしその内部空間はそうした室の目的と関係なく、すべて白く無性格な空間としてデザインした。それはその内部空間で人間同士が感じる「距離」をデザインしようとしたからである。この建築の内部では、全てが「白い」というその事だけで、まず距離感が曖昧になる。さらに形式としては木造3階建であるにもかかわらず、6つの床レベル、総計で25メートル近い長さの廊下・階段を設けることで、そこで暮らす人同士の「距離」だけが意識化されているように考え、また最後に到達する場所であるリビング・ダイニング・スペースはそれとは逆に大きな一室空間として設計し、外部に開いた。
ここでやろうとしたのは、どこまでも建築の内部空間でしかあり得ないような仕上げ、すなわち白い空間でありながらどこか外部のランドスケープであるかのような、散策路のような空間を創り出すことであり、内部空間を外部のように考えることは出来ないか、ということだった。それは「内部・外部」こそが、建築にとってもっとも重要な問題構制だと考えているからであり、また外部の仕上げを内部と反対に黒いつや消しの金属板としたのは、その問題構制を積極的に強調するためであると同時に、都市郊外のとりとめのない風景の中、この建築がそれを喫するものとして存在して欲しい、と考えたからに他ならない。