この住宅は東京都心にある住宅街に建つ、2棟からなる木造平屋の住宅である。
その敷地に以前から住んでいた母親が住む棟、そしてその娘夫婦が住む棟、そして2棟にはさまれて中庭やテラスや庭などの外部空間があるという構成である。建築の内部空間と外部空間としての庭が一体となった、我々が少し前まではそうしてきた伝統的な生活感覚をもう一度取り戻せないかと考えるところからこの計画はスタートした。大都市に建つ住宅の一般解としての建物を不燃化し高層化させることに対して、敢えてそれを避け、現代の都市ではどこかアナロスティックにさえ思える、木造平屋のコートハウスという形式を採用したのは、その土地の持つ場所性と歴史性、すなわち古くから日本家屋が建ち並んできた土地柄を引き継ぎたかったこと、もう一つはもしも可能性があるのなら敢えて、高密度の都市の真只中でも可能な、地面に接した生活の在り方を試行したいと考えたからである。また昔からここにあった樹木や灯篭、手水鉢など、住まい手の記憶の鍵となるものは可能な限り残すこととした。都市住居者にとっての場所の記憶の連続性を大切にしたいと考えたからである。