WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

代々木上原の家House in Yoyogi-uehara

竣工
2005.04
所在地
東京都渋谷区
写真
上田 宏

この住宅は高齢を迎えた夫婦二人のために計画されたものである。ご主人は切り絵作家であり、小さなギャラリーを兼用できるようなリビングルームと接客可能なダイニングルーム、その雰囲気が感じられるような場所に自分の製作のためのアトリエが欲しい、というところから設計は始まった。
建物全体のヴォリュームと形態はこの敷地に掛かっている法規制と道路から立ち上がった敷地形状によって決められたといっていい。ただ一つだけ恣意的な決定があるとすれば、それはテラスに生える梅の木である。この木は以前からこの場所に立っていたものであり、それをあえて残すこととし、その周りをテラスとしたものだ。
したがって、自動的に外部から決定されたヴォリュームの中にどのような内部空間が可能か、ということがこの建築の主題となった。
外部から階段を経てギャラリー/リビング、すこしレベルを変えてテラスを廻り込む場所にダイニングを配置する、そこから内部階段を経て2階のアトリエへと繋がり、最終的にはペントハウスへと繋がる、シークエンシャルな迷路のようでありながら、同時に立体的なワンルームでもあるような内部空間を構想すること。そして、それを自動的に決定されたヴォリュームの中に挿入すること。
エントランスからギャラリー/リビング、ダイニングへとつながる横長の大きな開口部と最上階に設けたスカイライトの二カ所だけがそうした外部と内部との接点となる — 二つの異なったルールで決定された外部と内部が開口部でのみ出会うような空間。
「中庭」や「屋上庭園」といった概念を援用しながら、内部から外部への空間的な繋がりを積極的に都市住宅に導入したいと試みた仕事も過去にはある。しかしここではもっと異なったやり方で内部/外部の関係を捉え直したい、と考えていた。「開口部」という建築部位についてもう一度捉え直してみること。それぞれ関係なく計画された外部と内部が限定された開口部でのみ出会うこと。ここで試みたのは、そうしたことだった。
さらにその開口部にはブロンズペーンガラスを使用した。「開口部」を主題とするならそれは透明ガラスであるべきだろう。しかしここでは問題をもっと複雑なまま、未整理で放置されたかのようにしたいと考え、あえて透明にはしなかった。階段前に立つ、内部空間の導線を邪魔するかのように挿入された自立する壁やチークで仕上げられた天井面も同じ意図のもと、問題をそのままに放置したかのようにするため、導入したものだ。
どの場所もそれが「決定的」であるようには見えないようにすること、というのがこの建築を設計するときのルールだったのだが、結果としてそれがどんな空間に結実したのか、今ようやく確かめ始めたところだ。