WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

清澄の家Kiyosumi Housing

竣工
2006.02
所在地
東京
写真
上田 宏

敷地は隅田川と小名木川が合流する場所に面し、一面が前面道路、残りが隣地と隅田川の護岸、及びその護岸上の遊歩道への導入路に囲まれている。すなわち3方向を護岸、道路など、パブリックな空間に囲まれており、住宅というプライベートな空間を必要とする建築の敷地としては、かなり特殊な条件下にある。クライアントは子供達が既に独立した夫婦二人であり、3階からプールのある屋上庭園を含む最上階の5階までが居住のための空間、2階から下はそれぞれが独立したアクセスを持つレンタブルのユニットで、住居、事務所のいずれの機能にも対応できるように設計されたものが3つある。特に地上階に入り口を持つユニットAはギャラリーのテナントを想定してデザインされたものである。

この設計を始めるに当たって、基本として想定していたのは、以下のような点である。
この建物の機能やプログラムについては、家族形態や人数が変化することに伴うプランの変更は勿論, 極端な場合は住宅をオフィスにするなど、まったく異なる機能に変更することも設計者としては視野に入れておきたいと考えていた。クライアントからそう依頼された訳ではない。どのような建築でも時間の流れとともに機能やプログラムが変化することは当たり前なのだが、このプロジェクトではそのことを積極的に主題としたいと考えていた。打ち合わせを繰り返すうち、射程距離の長い建築、今日的な言い方で言うと持続可能性を持った建築が求められていると考えるに至ったのだ。

したがってこの住宅の設計プロセスは、現在の法的な規制に従い、床面積や高さの許す限り最大限のヴォリュームをまず確保するところから始まった。次に機能的には可能な限り無性格で普遍的な形状の各階フロアを確保し、内部の機能からではなく隅田川や道路といったパブリックな外部空間とのインターフェースの取り方を場所によって変えることで、空間をアーティキュレート(分節化)する。そして最後に求められた機能、すなわち専用住宅と幾つかのレンタブルユニットをその中に挿入した。
平面形はサーキュレーション・コアを中央に持つ形式とし、そのヴォリュームをそれぞれの場所に応じて、様々な外部空間とのインターフェースの形式 − 閉じた壁面、半透明の壁面、3方向に開く開口、テラス,屋上空間、など − で性格付けしていく。結果として、階が上に上がるほど開放的な形態となった。また将来の機能変更のことを考え、空調システムや給排水設備はいつの時点でも更新できるように外壁に露出で取り付けることとし、木製ルーバーのカバーを取り付けた。このダブル・スキンの外壁は、例えば3階の和室前室部分の開口部では、外壁開口部分に重なる木製ルーバー部分もフォールディングし、開閉することで、和室の内部空間と外部である隅田川との関係を変化させる。
全体のプログラム、ブロック構成は何度か案をつくり、検討を繰り返し、工事が始まってからも細かく検討や変更を加えた。それを可能にしてくれたのが、上述の考え方、常に「現時点」を建築が変化するプロセスの単なる一段階として、暫定的に捉えるプログラムだった。また素材や開口形式についても同様で、現地の状況、特に現場周辺の人の流れに応じて、「現時点」での最善の解決案を模索し続けた結果がこの計画である。

最初にこの敷地に許される最大限のヴォリュームを設定し、次にその内部空間と外部の隅田川や道路との関係で外皮のデザインを決定するというプロセスによって、極めて論理的に、あるいは非=情緒的に決定されたのがこの建築なのだが、出来上がってみるとどこか隅田川に停泊している船のようにも見え、結果としてむしろ正反対の情緒的な形態が出来上がったことに驚いている。まるで依頼者が最初からそのような建築を望んで依頼してきたかのように、それはそこにある。まったく建築には何が起こるかわからない。建築の神様は本当に気まぐれだ。