このプロジェクトは設計競技の応募案であり、VIDEO ARTを主体とした個人作家のための美術館の計画である。これまでの伝統的な芸術とVIDEO ARTとの違いは、VIDEO ARTそのものは実体としてのモノを持たない点にある。限りなくそうした物質性から遠いところにあるといってよいだろう。そうした芸術のための美術館がこれまでの美術館のように当たり前に「建築」という概念に寄りかかっていて良いのか、内部に展示すべき「作品」(この概念さえももはや疑わしいのは自明のことだ)がそれまでの芸術の在り方に疑義を提示しているのにもかかわらず、それを収納すべき建築が安穏としていて良いわけがない、という基本的な地平からこのプロジェクトは始まった。
ナムジュンパイクとは「作家」ではなく、「出来事 activity」だと考えること。ここで必要とされているのは「作品」を収容する「建築」だはなく、そうした「出来事activity」のための「場 site」ではないだろうか。
我々が提案するのはさながらエローラかアジャンタの遺跡のように地面のランドスケープに沿って掘り下げられ、性格付けされた水平の床面、「場所place」と、それらの全体を覆う、ランドスケープの擬態であるかのような、不整形な形態の「屋根roof」だけである。
ここでは、屋根roofによって規定される場所placeが結果として「出来事activity」が発生する場siteを創り出すのであり、決して建築がそれを創り出すのではない、と考えていた。