
「これは住宅ではない。」
それだけがこのプロジェクトをデザインし始めた時に考えていたことだった。この空間は一方で仕事から離れた時間を過ごすために在るにもかかわらず、同時にその逆に、積極的に仕事を持ち込むための場でもある。積極的に「無為な時」や「仕事のための時間」を過ごすために設計されたものであり、この場所で唯一禁じられているのは日常的な時の流れに身を置くこと、すなわちそこに「住む」ことなのだ。
したがって、この空間が何に最も近いかというと多分、ホテルの一室だろう。そこで人は休息の時を過ごすし、仕事のための空間ともなる。ホテルの一室はどんな使い方も出来る。しかし、それは決して「日常的な空間」ではない。
このプロジェクトは三十年以上前に建てられたマンションの改装である。43.5㎥のユニットの内装を全て撤去し、片側にシャワー/洗面/トイレ(浴室は持たない)、列車の寝台のようなベッド、キッチンを配置した。それらの機能空間は最小限の面積に押さえると同時に、寸法精度、素材感には充分留意することで設計の密度を上げた。
残りの半分は間口2.9m、奥行10.5mの非日常的な、奥行きの深い、機能を持たない空間とした。その一番奥には開口部の向こうに太平洋が広がる。
奥行き方向左側に機能的な、ヒューマンスケールよりすこし小さいくらいの最小限空間を配置する事、その事で奥行き方向右側の奥行きの深い空間、その先に無限に続く海を配した、終わりがない空間が強調されることになる。 その二つの空間を区切るのは一枚の壁、濃い茶色の木材を乱尺に貼った壁である。無限定に延びる空間の中に一枚の壁を建てること、今思い返してみると、このプロジェクトでやろうとしたのはその事に尽きるのではないかとさえ思えるのだ。