WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

京都・小野Zen Lounge I ONO/KYOTO

竣工
2003.09
所在地
京都市中京区
写真
平井 広行

「京都・小野」は曹洞宗専門の法衣・仏具を取り扱う「お店」である。「お店」と書いたのはここでの営業形態が通常我々が想像するものとは随分異なっているからである。まずここでの顧客は基本的に曹洞宗の僧侶の方達である。この「お店」はいわゆる「店舗」であるよりもそうした方達と語らうための空間であることが第一義であり、その結果として法衣や仏具を商うこととなる。したがって、むしろ語らい合うための空間であることがまず求められた。場所が都市の真只中、それも大通りに面した場所であるにもかかわらず可能な限り密やかに、都市を行き交う人達にはそれが店舗であるとはあまり気付かれないように、というのがクライアントの考え方だった。
それは店舗の設計というよりは住宅のリビング・ルームだけをつくることか、あるいは都市の真只中に隠れ家を設計することに近い。それはやはり、「お店」としか呼びようのない空間だろう。

この空間は何枚かの面だけで出来ている。浮遊する床とテーブルの水平面。これらにはなぐり仕上げの栗とケヤキという少し異なった木の仕上げを採用した。人が直接触れる仕上げ部分であり、素材の選択はもっとも神経質なる部分であった。
垂直の面は三枚ある。一枚目は透明とフロストを使い分けたガラスの内側で都市からの視線は遮りつつ光だけを導入するための浮遊する鉄板のスクリーンであり、厚さ6_の鉄板の黒錆仕上げとした。二枚目は中央に建つ瓦を積み重ねた壁、三枚目はそれらをL字形に受ける布貼りの面である。
堅くて緊張感のある鉄板の面、素材感が強くて重い瓦の壁、それを取り巻く柔らかい質感の布の面という三枚の垂直面とまた別の素材感を持った二枚の水平面、この空間はそれだけで出来ている。
水平と垂直の面だけに要素を限ること。そんな風にしてできた、最小限の要素で構成された空間に、自分自身にとっては少々過剰気味な素材感を溢れさせること。ここでやろうとしたのは、そうしたことである。

都市の真只中に隠れ家をつくること、それはガラス一枚外に拡がる都市の雑踏から物理的な距離で言えば数十センチに過ぎない場所に、精神的には限りなく隔絶した空間を実現することだと考え、その結果採用したのがこうした構成だった。
もっとも、そんなやり方がこのプロジェクトの最初から気になっていた名前、道元 — この「お店」は曹洞宗のためのものだ — への答えになっているのかどうかは全く自信がない。そんな表現さえ傲慢に聞こえるかもしれないのだが。