宝塚市の郊外、古くからの住宅が広がる地域の中に建つ禅宗の寺院の計画である。本堂、客殿、庫裡という寺院の主要機能のすべてを建て替える計画であるものの、それらの機能を分棟とするには敷地に余裕がない。したがってその主要機能を一棟の建物にまとめながらもそれぞれの機能に必要とされる雰囲気を創り出し、さらに既存の墓地への動線を考慮しながら配置することが求められた。一番西側奥の墓地に面する位置に平屋の本堂、中庭を挟んでその東側に客殿、その上階に2層の庫裡を積層し、ひとつの建物の中にいくつかの機能が複合する寺院形式の創造、というのが設計の主題である。
この計画では伝統建築の単純なコピーではなく、現代建築であるにも関わらず、日本の伝統的な寺院の雰囲気を失わない、新しい寺院空間の提案をするべきだと考えた。
まず、寺院の空間にとって一番重要なのは、仏様との出会いの場であり、水庭に囲まれて建つ本堂では、長く深い軒を廻すことでほのかに暗い天井面を実現し、その中央に、北に向かって開く形態とした木造HPシェル構造の大屋根を架ける。大屋根の北側開口からは薄くスライスした石を透過する形で、仏様の後ろから採光する。暖かく柔らかい光を背景に浮かび上がる仏様との出会いを創り出そうとしたものである。
庫裡は住職の住まいであり、東側の客殿の上部に2層分設ける。密度の高い住宅地域の中で必要となる住居としてのプライバシーの確保と外部環境への開放という、矛盾する機能を同時に満たすため、必要に応じて開口を取った壁面の外側に電動の可動ルーバーを設けることで、外部とのインターフェイスを状況に応じて変更可能な形式とした。