WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

紫野和久傳Murasakino Wakuden

竣工
1995.08
所在地
京都市北区
写真
平井 広行

「紫野和久傳」は60sqm.に満たない敷地に建つ3階建ての日本料理店である。1階は持ち帰り用の御弁当を販売するためのスペース、2階がこの建物の主目的であるダイニング・スペースとなっており、3階はそれらのための厨房という単純な構成となっている。敷地の南側は北大路という京都の主要幹線道路に面し、騒然とした街並みとなっている。一方、西側は6m幅の道路の向こう側には広大な大徳寺の境内が拡がっているため、本計画では南側を閉じ、西側を大徳寺の緑に向けて開くことにした。敷地北側に小さな中庭を設け、1階はエントランス・コートを兼ねたこの中庭にのみ開いている。まず1階については壁面や床の仕上げは土とし、都市の喧噪から切り離された、閉じた静かな空間となるよう計画した。それに反して2階では、西面の開口部にはルーバーを取り付け、目線が下の道路や上の空へではなく、道路向かい側の大徳寺の緑へと向かうよう計画した。その結果2階の空間は北側の中庭に面すると同時に大徳寺の緑に対しても開いており、開放的な構成となっている。北側の光だけの閉じた1階の空間から、光があふれる2階の開放的な空間へと遷移していく内部空間とその鍵となっている中庭、というのがまず第一の主題だった。
二つ目の主題は鉄筋コンクリートの建物で和風をどう表現するのか、という点だった。対面する大徳寺の建築にいかに敬意を払うか、と言い換えてもいい。一つは北側の中庭に緑を設け、大徳寺の緑を迎え入れるよう考えた。道路を挟んではいるものの大徳寺の緑との連続性が重要だと考えたからである。もう一つは屋根形状によってではなく、壁の仕上げを考えることで伝統的な表情を作り出そうとした。結果として寄棟屋根のエッジだけを見せ、浮かせることで屋根の意味性を弱め、コンクリート打ち放しの壁面と栗の木の横羽目の面を組み合わせることで、新しい和風の表情、大徳寺に向けての表情を作り出すことができたのではないか、と考えている。