この研究所は京阪奈丘陵に拡がる関西学術研究都市の一角、新しいビジネス・パークの中に位置しており、仏像や遺跡からの出土品といった文化財の修復や復元技術の研究を行なっている。敷地は南北方向に延びた全体としてほぼフラットな矩形であるが、道路とのレベル差が南から北へ約3m変化している。従ってその特性をどう生かすのかというのが1つのポイントであり、結果として敷地南側から建物の2階へメインのアプローチをとり、敷地北寄りの1階に搬入・サービス用の入口を設けるという、現在の形に落ち着いた。 見方によっては地下階のようにもみえる1階は東西・南北方向に延びるコンクリートの壁と地面のレベル差だけで構成されており、その壁の上に鉄骨造のフレームをのせることでこの建物は出来上がる。
同時にアプローチ、2階のテラス、前庭の緑の斜面、階段状のコンクリートの屋外展示スペース、北側に拡がる中庭などの外部空間がそれぞれ独立しながらも全体として繋がるように計画してあり、多様な屋外空間の拡がりとシークエンスの中に研究のためのスペースがそれぞれ独立して配置してある。それは自分の眼の前に存在する何百年か前の仏像を通じて、それを彫り込んだ仏師と対峙する現代の技術者にとっては、緊張が弛んだ時にふと感じる季節感や自然の近さこそが大切なのではないかと考えたことの結果なのだ。