WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

stadium 600stadium 600

竣工
2001.11
所在地
愛知県名古屋市
写真
平井 広行

「劇」的な空間

名古屋市の中心部に近い商業エリアに建つ470席のパチンコ・ホールの建築である。最近はむしろ郊外店のパチンコ・ホールの方が、その派手な衣装のせいもあり眼に付きやすいが、今回の計画は都心に建つ既存店舗の建て替えであった。裏側が細い道路に面してはいるものの、基本的にはファサードを一面だけ持つ都市の建築であり、パチンコ・ホールという建築のファサードとしては、その派手さや奇異さを競うのが標準的な解答だろうと漠然と思っていた。ところが最近の業種・業態の変化に伴うパチンコ・ホール像の変遷を見てみると、こうした都市の中ではむしろこれまでとは逆のアプローチ、一見すると街並みに埋没しているかのような、静かな提案もあり得ると考えるに到った。
パチンコ・ホールの内部空間は外部と完全に切れている必要がある。今が昼なのか、それとも夜なのか、そんな外部の時間とは全く関係のない時間がそこでは流れている必要がある。日常的な時間の流れから外れるためにこそ、人はパチンコ・ホールを訪れるからだ。それはほとんど、劇場か映画館のようなものではないか。そう考えた結果、ファサードはアイレベルでは中が窺えないものの、高い位置にある開口部からは雰囲気だけが伝わって来るという、伝統的なピアノ・ノービレのような構成となった。
この建築は道路と平行に層状化した三層の空間からできている。どこかに都市の喧噪を残す、高く、長く、薄いエントランス・ホール。二つめは幕間の劇場がそうであるように、たとえ人がそこに居なくても、どこか人の気配を感じさせるパチンコ・ホールの空間。そしてホワイエのような、観劇が終わった後の心の嵩ぶりを沈めるための空間としての後ろのエントランス・ホールが三つめである。
それらと外部空間としての「都市」をも含めた四つの空間が繋がるのではなく、むしろそれぞれが独立するように断ち切られ、さながら四幕の芝居を見るように、建築を体験すること。「テアトロ・オリンピコ」の前庭から内部までの構成や「金丸座」のことが頭をよぎらなかったと言えば嘘になる。建築をそんな「劇」的 − dramaticというよりはtheater-like − な空間のコラージュとは出来ないか、と考えていた。これまでのように、「シーンの連鎖」として一本の映画のように考えるという構成の結果、この建築が出来たわけではない。さながら劇場のような、そんな「劇」的な空間、夢の断片を集積したような空間はそうした方法論では生まれ得ない、むしろ逆にその連鎖を断ち切ることで可能となるのではないか、と感じていたのだ。