WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS

書院 / Third-placeZen Lounge III

竣工
2009.06
所在地
東京都千代田区
写真
鈴木 久雄

1970年代の中頃に建設された都心の9階建て集合住宅、その7階を改装するというのがこのプロジェクトではあるが、これは少々説明の難しい、奇妙なプロジェクトかもしれない。
都市、それも巨大都市に居住する人間にとって、自身の住居が確保出来た後に最初に考えるのは、自然の中で過ごす時間を持ちたいということだろう。それは時に「別荘」であったり、リゾートホテルでの長期滞在だったりする。そうした日常的な住まい方から離れた生活様式を総称して「Second-house」と呼ぶとするなら、このプロジェクトはそうした「Second-house」を既に獲得した人のためのその次のステップ、有り体に言えば生活様式としての「三番目の住宅」、すなわち「Third-house」と呼ぶのが一番判りやすいのではないだろうか。都市に居住し、自然の中にも第二の居住空間を確保し体験した後に、再び都市に回帰するための空間、第三番目の居住空間。
したがってこの空間は時に二番目の都市内居住空間となり、すなわち「住宅」でもある、しかも同時に仕事のための空間でもあることが求められ、非日常的な「オフィス」としても機能するものであること、最後に付加的な要望として「立礼茶席」としても機能する場でもありたいという、なんとも記述しようの無いプログラムから始まった。「機能」や「プログラム」が設計の動機付けにならないとしたら、建築はどこにその立ち位置を見いだせばいいのか、と考えた時、我々の歴史の中に在る、住居でもありオフィスでもあるという多機能空間、それも茶道の成立とも無縁ではない空間形式である「書院」と呼ばれる空間の存在に気付くことになる。
インテリアデザインとしての立礼の茶席、という有り様を聞くと、1951年に松坂屋で開催された「新日本茶道展覧会」に堀口捨己が設計した美似居のことや、同じ年の日本橋高島屋の「新感覚の日本・美術工芸展示会」、吉田五十八の立礼と畳席をまたいで繋がるテーブルなどのことが気にならなかったといえば、嘘になる。そうした先行する巨匠達の実例を横目で見ながら設計したのだが、その時代、1950年代はじめに「立礼」茶席が提案しようとしたことの意味を想像すると、その眩さに眼がくらんでしまったというのが、正直なところである。